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「アニエスベー オム」のナポレオンライダースジャケット【連載:sushiのB面コラム】

ジャケットのイラスト
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「アニエスベー オム」のナポレオンライダースジャケット【連載:sushiのB面コラム】

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ファッションライターsushiが独自の視点で、定番アイテムの裏に隠れた“B面的名品”について語るコラム連載「sushiのB面コラム」。2023年1発目は初売りにまつわるトピックをお届け。今年の“古着屋の初詣”では「アニエスベー オム」のナポレオンレザージャケットを手に入れたという同氏。すでに同じジャケットを数着持っているにも関わらず、再び購入に至ったワケとは?

 新年明けましておめでとうございます。今年も当コラムをどうぞよろしくお願いいたします。

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 昨年末は久しぶりに田舎の実家に帰り、家族と過ごすなどした。さて、読者の皆さんはどんな正月を過ごしただろうか。僕はここ数年、毎年“初詣”に行っている場所が高円寺にある──ご推察の通り、「古着屋の初売り」に行くだけなのだが、地名に「寺」がついているので“初詣”という事にしている。新年1本目の記事にも関わらずしょうもないダジャレから始めてしまった。ちなみに作法的には、初詣の場所は神社でも寺でもどちらでも良いらしい。

 古着屋の初売りというのは、古着好きからすれば大分定着したイベントで、店によってはレアなヴィンテージ物などを一気に放出するようなタイミングでもあり、年末年始の古着界隈はちょっとしたお祭りのような雰囲気に包まれる。僕もその時期は初売りが有名な店の入荷情報にかぶりつき、知人とも「どこそこであの○○が出るらしい」などといった話題で持ちきりになる。古着屋の初売り文化はもともと地域柄、古着人気が根強い大阪で始まったものらしく、それが徐々に波及する形で現在のように一種のイベント化したようだ。そんな古着屋の入荷日イベントが重なる初売りには日本全国津々浦々からお目当てのアイテムを求めて洋服好きが集まるのだが、今回は僕が今年の初売りで手に入れた“2023年ファーストバイ”の中から、珍しいメンズの「アニエスベー(agnes b.)」のナポレオンライダースを紹介したい。

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 アニエスベーは1970年代にフランスはパリでスタートしたブランドで、1984年には日本にも上陸し、旗艦店をオープンした。ラガーシャツにデザインのルーツを持つボーダーのカットソーやスウェットシャツがボタンで前開きになったカーディガンプレッションなどを筆頭に人気を博し、フレンチカジュアルスタイルの雄としての地位を揺るぎないものにした。ウィメンズ・メンズともに肩肘張らない雰囲気ながらも、どこか繊細でフェミニンな空気感がイメージに強い。

 現代ではアニエスベーといえば前述した2つのアイテムのイメージが強いと思われるが、今回のナポレオンライダースも同社では昔から定番品の一つとして現在も展開されているアイテムで、アニエスベーのブランドとしての全盛期をリアルタイムで体験した先輩方からすれば同社の看板商品の一つに挙げられるだろう。

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 このナポレオンライダースは見た目のスマートさが良い。短い着丈に呼称の由来となったフランス皇帝ナポレオン・ボナパルトの軍服を連想させる2列のボタンからなる前身頃の意匠が特徴的。おそらくデザインソースは1940年代~50年代あたりのドイツもののモーターサイクルジャケットで、なんなら以前ほぼ同じデザインのものを目にしたことがある。一方で、サンプリング元のジャケットはショルダーもかなり構築的で、非常にマスキュリンな印象を与えるのだが、シルエットはアニエスベーらしくタイトにアレンジされている。本体には柔らかくしなやかなラムレザーを使用し、フランスブランドらしいエレガントなジャケットに仕上がっているのがうれしい。アウターとして使うのはもちろん、ざっくりとしたものを上から羽織ればインナー使いもできるので、ニットにアウターをかぶって終わりになりがちな秋冬のスタイリングのマンネリ化を防ぐにも持って来いだ。僕もあまりに便利なので今回紹介するものの他に、素材違いと、ボタンやジップのデザイン違いで他に2着、計3着持っている。いずれも1990年代の個体だが、こういうアイテムがワードローブにあるだけでスタイリングの幅がグッと広がりを見せるのだ。ヴィンテージレザーの武骨な意匠を踏襲しつつ、現代的かつ機能的、さらにはアニエスベーらしさも配合されたデザインは長い間大きなシルエット等の変更がなく、タイムレスに愛されている名作だ。

 しかし、メンズでこのジャケットを着用するにはちょっとしたハードルがある。実はこのジャケットは、古い物で探しても同社のメンズラインである「アニエスベー オム(agnès b. HOMME)」で展開された個体の数が極端に少ないのだ。意匠としてはメンズとウィメンズの個体で大きな差は特段ないものの、やはりウィメンズラインでメンズ着用可能なサイズとなると最低でもサイズ40、理想的なものではXL相当の42になってくるだろう。ウィメンズの方が個体数は多いとはいえ、サイズ感的には発掘難易度はかなり高いと思われる。

 僕がもともと所有していた2着はともにウィメンズの42サイズ。そのうち一着は手に入れた時点で既にそれなりに着込まれており、状態も良いとは言えない。それなりに入手するのに労力を要するこのジャケットなのだが、今回初売りで購入できたのは念願のメンズ個体だったのだ。そして手持ちのウィメンズ個体と比較した上で、メンズが着用するのであれば、やはりメンズ個体をお勧めしたい。

 先ほどこのジャケットについて、意匠上はメンズ・ウィメンズ共に大きな差はないと書いた。確かにボタンの配置やポケット形状など見た目のデザイン上は共通しているのだが、実は着用した際の印象に大きな差がある。簡単に言えば、メンズラインの個体の方が武骨なテイストをほんの少し強く感じさせるのだ。デザインは同じなのにも関わらず、どこで差を出しているのかというと、使用されているレザーにある。今回入手したメンズ個体ではラムではなくカウハイドが用いられており、手触りやレザーの分厚さには決定的な違いがあるため、より男らしい印象を受ける。レザーの分厚さが違えば、縫製のピッチも若干大振りになり、全体的に粗野な雰囲気を増す要素が多くなる。もちろん土台になるアニエスベーらしいエレガントさは十分に残しつつも、「神は細部に宿る」という言葉もあるが、男性が着ることを想定した些細な仕様の変更でマスキュリンさを演出している。このエスプリを感じてしまうわずかな差こそが、メンズ個体の魅力だと思う。もしこのコラムを読んで「欲しい!」と感じてくれる方がいるのであれば、ウィメンズももちろん悪くないのだが、根気よくオムで展開されたメンズのものを探し当ててほしい。

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 今回紹介したアニエスベーオムのナポレオンライダースのように、面白い古着を手に入れるなら、年始の1月2日~4日あたりが一大チャンスだ。セレクトする服の系統に強いこだわりがある店であれば、初売りの品揃えからその店のテイストを存分に味わえるのもまた見どころ。ちなみに今回このジャケットを購入した店では時たまメンズの個体が出ており、同じアイテムを狙うのであればチェックしておいて損はないはずだ。

 初売りでは店によっては長い並びの列ができたり、そもそも抽選で入店順が決まる店もあり、狙ったものを手に入れるのにはそれなりの努力や運が必要なのも間違いない。だが、長い並びの時間の中で同じ店に並ぶと常連と顔見知りになれたり、高円寺で古着屋巡りをしながら、知人やよく行く店に新年のあいさつをついでにしてみたりと、単純に服を買う以外にも服を通じた副産物的な楽しみがある。

 僕は服そのものも愛してやまないが、洋服を通じてコミュニティの輪が広がっていくのもまたファッションの醍醐味であり、購入した服以上に大切にすべきとも思う。今年も洋服を通じて良い出会いがあることを祈念しつつ、服屋への賽銭を奮発しすぎたために2023年も赤字スタートになっているのが難しいところであるが、賽銭を投げているという意味では冒頭で使った“初詣”という表現は案外間違っていないかもしれない。

15歳で不登校になるものの、ファッションとの出会いで人生が変貌し社会復帰。2018年に大学を卒業後、不動産デベロッパーに入社。商業施設の開発に携わる傍、副業制度を利用し2020年よりフリーランスのファッションライターとしても活動。noteマガジン「落ちていた寿司」でも執筆活動中。

FASHIONSNAP 過去連載「あがりの服と、あがる服」記事一覧

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