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「ショーフィールズ」から考察するリテールの現在地【連載:NYコラム】

IMAGE by: Jun Takayama

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「ショーフィールズ」から考察するリテールの現在地【連載:NYコラム】

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日本でファッション業界のキャリアを積み、現在はニューヨーク・パーソンズ美術大学に留学中の高山純氏が現地のファッション事情をお届けするコラム連載「NYコラム」。第6回は日本上陸がアナウンスされていた「ショーフィールズ」を視察。「体験型デパート」と呼び声高いショーフィールズだが、筆者が実際に感じ取った“リテール革命”は別のところにあった。

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日本未上陸、ショーフィールズの今

 昨年、ニューヨークの「ショーフィールズ(SHOWFIELDS)」が双日と組み、日本に上陸することが発表された。しかし諸事情で延期状態となっているようだ。

 ショーフィールズはニューヨークで2018年にオープンし、OMOやRaaSというキーワードに関連して注目された過去がある。日本にいるときに「未来の店舗」という触れ込みで名前を耳にしたことがあったが、実際に訪れたことはなかったのでNOHOにある店舗に足を運んでみた。

 入り口は小さく、初見だとやや入りづらい雰囲気があった。また、女性がメインのターゲットのようでコスメやスキンケア、下着、ストッキング、ウェディングドレスなどの商品が並んでいた。

ショーフィールズの店内
ショーフィールズの店内
ショーフィールズの店内
ショーフィールズの店内
ショーフィールズの外観

 ショーフィールズではブランドが約半年の間、店舗内のスペースを借りることができる。オンライン専業のブランドがショールーム的に利用する場合もあれば、実際に商品を購入できる場合もあるようだ。

 フロアごとにおおよそのテーマが決まっているものの、複数のブランドやアイテムが次々に並んでいて飽きない。しかし、半年ほど同じブランドと商品があることを考えると、一度来店したらしばらくは来ないという人が多いのかもしれない。また、土曜日の午後という混んでいそうな時間帯に訪れたものの、4層にわたる店舗には僕ともう一組しかおらず、やや寂しい印象があった。

 テクノロジーについても期待していたが、各ブランドのブースにあるQRコードとエレベーター内のモニターくらいしか記憶に残るものはなかった。プラスポイントはフロアごとの作り込みが凝っていたり、店内に滑り台があっておもしろいという点くらいであった。ショーフィールズの現在の業績などはわからないが、正直活気があるようには見えなかった。

 ショーフィールズの店舗向かい側には「キス(KITH)」があるのだが、長蛇の列ができており、非常に対照的な雰囲気だった。ストリート色がランウェイから消え始め、「シュプリーム(Supreme)」も売上が前年を下回ったというニュースもあるが、巷の需要はまだ続いているようだ。

“リテール革命”はどこで起こっているのか

 5〜6年ほど前にファッションEC大手のファーフェッチ(Farfetch)が店舗の「OS」を開発し、Store of the Future、すなわち“未来の店舗”がすぐそこまできているという記事を読み、リテールの進化に大きな期待を抱いた記憶がある。同じ時期にはAmazonから完全無人型店舗「Amazon Go」が登場し、ファッションではないものの実際に消費者が触れるテクノロジーがどんどん発展している気がした。

 しかし今現在の肌感覚としては、思っていたほど大きな変化は訪れていない。未来の店舗のようなものを想像した時に過度なSFっぽいものを想像してしまっていたということもあるかもしれないが、「実店舗に行き、商品を手に取って会計をする」というシンプルで本質的な形は変わっていないのだ。冒頭で出てきたAmazonGoは現在、ニューヨークには8店舗ほどあるが、特にそのモデルがリテール全体に浸透したりスタンダードになったなどということはないだろう。

 では、いわゆる“リテール革命”はどこで起こっているのか。僕は、消費者が直接目にしたり触れることのできるものよりも、店舗を支えるシステム周りやロジスティクス、オンラインで購入して店舗で受け取る「BOPIS(Buy Online Pick-up In Store、ネットで購入した商品を店頭で受け取る)」など、センセーショナルではない裏側の進化が着実に起こっていると考えている。その一例だと感じた「アイリーン・フィッシャー(Eileen Fisher)」の事例を紹介したい。

アイリーン・フィッシャーに見る、テクノロジーとの上手な付き合い方

 ニューヨークのファッションブランドであるアイリーン・フィッシャーは1984年に創業し、来年40周年を迎える。デザインはシンプルで、客層の中心は40代以降という、いわゆる「ミセスブランド」だった。近年では特にアップサイクルへの取り組みが支持を集め、20代の客層も拡大しているという。

アイリーン・フィッシャーの外観
アイリーン・フィッシャーの外観
アイリーン・フィッシャーの店内
アイリーン・フィッシャーの店内

 気になり実際に店舗を訪問してみると、「テクノロジーによるリテール革命」みたいなセンセーショナルな進化よりも、消費者と店舗スタッフ双方の利便性がテクノロジーによって気持ちよく適度に向上していた。店舗には60代のスタッフもいたが、CRMツールの操作やBOPISへの対応などウェブストアとの連携もスムーズにこなしていた。むやみに新しいものを追求せず、消費者にもスタッフにもシンプルでちょうど良いサービスが印象だった。ひと昔前であればオンラインとの連携はアナログな作業もあってオペレーションが煩雑であったり、ユーザーとスタッフ双方に負担があったりしたと思う。このような進化がリテール体験や質の向上につながってくるのだろう。

 一方で、近隣にある「ガニー(GANNI)」や「アクネ ストゥディオズ(Acne Studios)」といった“今っぽいブランド”の店舗を訪れると「リテールの未来」を実感する要素は少なく、シンプルに服を売っていた。テクノロジーといえば店内のモニターくらいで、顧客のやり取りも電話やテキストでのメッセージが主流。ガニーでは顧客情報をエクセルで管理し、それをCRMツールにコピー&ペーストで一つずつ移す手間があるなど現場ならではのスタッフの苦労話を聞いた。アイリーンフィッシャーのスタッフの方がテクノロジーを使いこなしており、最先端というよりも最適な使い方をしているようであった。

ガニーの外観

 本質的な業務や取引をスムーズにしていく、あるいはより多くの人がより多くのことができるようになるようなテクノロジーが僕は好きだ。特にリテールは数千年前から存在するシンプルな取引であり、それをさらにスムーズにしていくことに大きな意義と価値があると思う。それを無理せず必要な分だけ取り入れている業態やブランドは強い。

意外とアナログなラグジュアリーブランド

 一方でラグジュアリーに目をうつすと、リテールにおけるテクノロジーの活用について別の苦労があるかのように思える。

 資金が豊富なラグジュアリーブランドは、顧客からは見えない裏側のテクノロジー導入や仕組みづくりが非常に進んでいる。しかしながら、顧客との実際のタッチポイントではテクノロジーの導入に苦労しているのではないかと思う。苦労というよりも、接客などのサービスにおける「人間の価値」が高まっている現状において、広告目的以外で人間を代用するテクノロジーを取り入れる必要性はむしろ低くなっていると感じる。付加価値が売りのラグジュアリーでは特にそうなのではないだろうか。最近では「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」の草間彌生ロボットが話題を集めたが、これも「広告代わりとなるテクノロジー」に過ぎない。ニューヨークにある各ブランドの旗艦店を見ても非常にシンプルなままだ。

 「モノを店舗で売る」という点では、今までもこれからも違いは起きない。そしてしばらくは決済や物流、在庫管理などオペレーション面を中心にリテールの進化が続くと思う。新しい“リテールトレンド”が出てきても、「モノを売る」ということの一部を切り出して向上させたり最適化していくだけなのだろう。

 店舗が進化し、最適化されていく過程で、ブランドやその店舗の目的と存在意義がより問われるようになるが、最新の決済システムを導入したり、ウェブで注文した商品を受け取ることが目的となっているブランドはないだろう。自らの店舗に必要な要素を見極めて無理をしない。そして必要なものであれば今までと全く違うものでも導入に踏みきる。このような素直で大胆な動きができるところは規模に関係なく強い気がする。

 本記事を書いていく中で、僕が感じていた急激な進化への過度な期待や不安は昔と比べてもうあまりないと気付いた。そしてリテール体験が様々なブランドによってより良くなっているんだなという安堵感が大きい。

高山 純

Jun Takayama

慶應義塾大学法学部卒業。在学中は「Keio Fashion Creator」や「ファッションビジネス研究会」の代表を務める。卒業後、外資系コンサルティング会社及び投資ファンドにてM&Aやファッションブランドへの投資業務などを担当。LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン勤務を経て、2022年8月よりパーソンズ美術大学ファッション経営修士課程に日本人として初めて留学中。

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