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老舗百貨店の松屋が新体制 古屋毅彦新社長が受け継ぐ「恥ずかしい商品を売らない」の精神

Video by: FASHIONSNAP

 百貨店の松屋が、創業家出身で前専務執行役員の古屋毅彦氏を新社長に迎え、新体制でスタートした。インバウンド需要の高い銀座エリアに本店を構える同社はコロナ禍で大打撃を受けたが、水際対策の緩和とともに街に賑わいが戻ってきている。しかし古屋新社長は「今は過渡期」だとし、手放しに喜ばず緊張感を維持する。百貨店業界は縮小の一途を辿る中、呉服店「鶴屋」時代から数えて創業154周年を迎える新生松屋が目指す新たな企業像を探った。

■古屋毅彦
1973年東京生まれ。1996年に学習院大学法学部政治学科を卒業後、同年4月に東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)に入社。松屋には2001年に入社し、2008年に米国コロンビア大学院(SIPA)国際関係学修士号を取得した。2011年に取締役執行役員に昇格。本店長や取締役常務執行役員、取締役専務執行役員など経て2023年3月から現職。松屋が社長を交代するのは16年ぶり。

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バブル崩壊、リーマンショック、百貨店業界再編、コロナ禍を経験

―古屋新社長は2001年に松屋に入社しました。

 私は高度経済成長期が終わる頃に生まれたのですが、社会に出た時から振り返ると、日本の景気が良いのを一度も体験していないんですよ。社会人になった時にはバブルが弾けていましたし、2008年にアメリカから帰国した時はリーマンショックと一緒に日本に帰ってきましたから(笑)。

―この20年強で百貨店業界は大きく変化しましたね。

 そうですね。2000年代後半は、高島屋とH2Oリテイリングの資本提携、三越と伊勢丹の統合、そごうと西武百貨店の合併など大きな変化がありましたし。

―コロナ禍では苦戦が続きました。

 この数年間は本当に大変でした。外的要因で言えば、東日本大震災の時も非常事態ではありましたが、地震が発生した翌日でも売り上げはそれなりにあったんですよ。でもコロナは営業すらできない。弊社は売り上げのほとんどが銀座店ですから、インバウンド需要の反動もありましたし、デジタル周りの取り組みも遅れていたので、コロナ第1波のときは為す術がないという状況で。想定以上にコロナが長引いたのもダメージが大きかったです。

 一方で、コロナ禍で感染リスクがあったともしても来てくださるお客様の存在がありました。これまではオフィスの帰りに立ち寄る、という需要がありましたが、コロナ禍でリモートワークが普及したことで百貨店から足が遠のいてしまった方も多くいらっしゃると思います。そういった環境下でも、わざわざ来てくださるお客様がいた。「足を運ぶ価値」を我々が作っていかなくてはいけないと再認識できたのは大きな収穫だと思っています。

インタビュー中の手元

Imaged by FASHIONSNAP

―コロナを経て、松屋の存在価値はどのように変化したと感じていますか?

 社会的には「豊かさ」や「幸せ」の価値基準が多様化してきていて、その中で百貨店のマーケットでは「スピード」と「多様性」が特に求められるようになったと思います。銀座エリアはファストファッションもありますが、ラグジュアリーブランドが多く集まっています。その上で大事なのが、お客様の来街目的がブランドなのか、百貨店なのかという視点です。我々は創業以来、デザイン性が高く生活を彩るリビングなどの製品を通じて「カルチャー」の部分で貢献してきたという自負がありますが、コロナを経て改めて百貨店、そして松屋の役割を見つめ直さないといけないと感じていて。百貨店は「信用・信頼」が強みではありますが、それだけで終わらないようにしなくてはならないと思っています。

―銀座エリアには三越銀座のほかにギンザシックス(GINZA SIX)があったりと、競争が激化しているのでは?

 ブランドの取り合いというのは、ある程度一段落したと思いますよ。それに、銀座エリア内での取り合いというよりは、エリア間競争のほうが重要な気がしています。渋谷や新宿から、いかに銀座に来てもらうか。地域と民間企業が連携してファッションやアートを発信する「東京クリエイティブサロン」ではギンザシックスさんも含めて一緒に取り組むなど、横のつながりも以前より強くなりましたし、「銀座を盛り上げていこう」というのは他の企業もベースとしてあるのではないでしょうか。

―コロナが収束して水際対策が緩和されて以降、銀座エリアではインバウンド消費が復活していますね。

 来ていただくのは当然嬉しい話ですが、一方で“問題点”が見えにくくなるという点も危惧しています。

―「問題点が見えにくい」とは?

 海外の方が我々にどんな価値を感じて来てくれているのかという点ですね。それが日本人と一緒なのかどうか。百貨店という業態は一つの館でファッションからライフスタイル、アート、グルメまで買い回りができる利便性と、安全安心できる商品を取り扱っている信用性が強みで、そこを海外の方にも評価いただいているのではないかと考えていますが、日本人のお客様が求めているものと、海外のお客様が求めているものというのは、ちょっと違うような気がしていて。私は営業本部長を兼務し、7年ぶりに改めて営業に出るので、もう一回よく見てみたいなと思っています。

―日本人客とインバウンド客で需要が異なる場合、どちらに寄り添うのが正解だと考えますか?

 例えばラグジュアリーブランドや宝飾品はどちらからも人気があるのですが、ゆっくり接客を受けたい方がいれば、できるだけスムーズにお買い物をされたい方もいます。どちらのお客様も大事ですので、オペレーションの効率化が重要です。ただし以前よりも現場はスリムになったので、うまくアジャストしていくかどうかが今後の課題ですね。

インタビューカット

Imaged by FASHIONSNAP

「今は過渡期」松屋銀座はどう変わる

―松屋銀座では5階の売場を改装したほか、食品売場には冷凍食品のコーナーを設けるなど新しい取り組みにチャレンジしています。売場を作っていく上で大事にしていることは?

 例えば化粧品売場では「ノーズショップ(NOSE SHOP)」や、先日新たに出店した「オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー(OFFICINE UNIVERSELLE BULY)」といったブランドは他の百貨店に先駆けて導入していますが、これは「早さ」にだけこだわりを持っているのではなく、「松屋らしいブランド」というのを特に意識しています。2011年に作ったストアコンセプト「GINZAスペシャリティストア宣言」の中に「スマートな美意識」という項目があるんですが、お客様だけではなく松屋のスタッフにも「良い」と思ってもらえるブランド選びを徹底しているんです。

―売上が狙えることだけに固執しないのが松屋のやり方。

 商売なのでもちろん儲かることは大事ですが、我々のような小規模な会社は、いかに他社にできないことをやれるかに軸を置くことが重要です。あとは多くのお取引先様と信頼関係を築き、長くお取引ができているのも強みですね。

―百貨店業界全体では閉店が相次いでいます。

 我々も今は過渡期だと思っていて。コロナは段々と収束しつつありますが、一方で世界情勢が不安定で、社会の価値観もどう変化していくのかは読み切れない。過去の成功体験がそのまま当てはまらない時代です。ただはっきりしているのは、大量生産、大量消費の世界にはもう戻れないということ。我が社はうまくやれば成長する余地があると思っていて、あとは変わっていく価値観をいかにちゃんと捉えていけかどうかにかかっていると考えています。

 会社としては「未来に希望の火を灯す、全てのステークホルダーが幸せになれる場を創造する」というミッションを掲げています。日本国内でも物価高騰など生活コストが上がったり、治安を揺るがすような事件が起こったりと、「本当に今の時代は幸せなのか」と感じてしまう瞬間も多いと思うんです。その中で、松屋は商品や心温まる接客を通して未来に希望が持てるような場所であり続けられるように努力していきます。

経営方針「顧客第一主義」「共存共栄」「人間尊重」「堅実経営」「創意工夫」

松屋の経営方針

Imaged by 松屋

―浅草店の進捗は?

 浅草店のあり方についてはずっと考えています。浅草店は地域密着でやってきましたが、エリアの高齢化も進んできていますし、観光客が多いエリアでありますから、「地域密着」の意味をもう一度見直さなくてはと思っています。いきなりいろんなことを大きく変えていく、というよりは、少しでも歯車がうまく作用していくような施策を検討していきます。

チャレンジしていくことを恐れない組織に

―16年ぶりのトップ交代。就任してまだ間もないですが、率直な感想は?

 変化していかなければならないタイミングですから、まずは社員一丸となってさまざな施策に取り組んでいきたいですね。

―秋田前社長からはどんなことに期待されているのでしょうか。

 秋田さんは代表権を持たずに取締役会の議長をやられるということで、業務執行は私がトップとして行い、秋田さんは経営を監督するという役割はしっかり分けていくというお話はしていただきました。社内の雰囲気を変えていくためにも自由にやっていいよ、とも言っていただいて。そういう意味で言えば、自分の色を出していきたいですし、スピードアップもしていきたい。先程の時代の変化の話にもありましたが、のんびりやっていられないですから。

インタビュー中の横顔

Imaged by FASHIONSNAP

―2期連続の赤字決算でしたが、2023年2月期には黒字回復していますね。

 黒字を達成できてよかったです。さらなる手応えを感じています。

■松屋 2023年2月期通期連結業績
売上高:876億2900万円(前期比34.7%増)
営業利益:3億4700万円(前期は営業損失22億8000万円)
純利益:43億8300万円(前期比338.2%増)

―コロナの苦しかった時期を乗り越え組織も新体制になったことで、社内の雰囲気も変わっていかれているのでは?

 コロナ禍ではオペレーションでコストカットをしたりと無理をさせてきました。営業本部長を兼務する以上、現場の声が届くように体制を整えていきたいと思っています。そういう意味では皆モチベーションは高く持ってくれているように感じていますよ。

―社員が一丸となるために取り組んでいることがあれば教えてください。

 初代社長の2代目・古屋德兵衛の経営に対する考え方や歴史、カルチャーについて従業員向けの説明会を開いています。彼は銀座で商売をする以上、「恥ずかしい商品を売るな」と言い続けてきたんですね。そういうところから「本物」を見つけていく、という考えが我々にあります。

 「本物にこだわる」というのは「実質本位」「親切丁寧」という顧客第一主義の発想から来ています。表面だけではなく、例えば職人さんが一生懸命作ってきたストーリーも含めて価値があるもの。これが松屋にはあるし、社員も皆そう思ってくれていると思います。

―最後に、「古屋新社長が率いる松屋」をどんな企業にしていきたいですか?

 「みんなが一人ひとりが自分で考えて自律的に行動していける、フラットな組織文化にしていこう」という話を今しているんですが、それには各々がモチベーションを持ってやっていかないとうまく機能しません。失敗を恐れないで色々なチャレンジをしてほしい。そこは私が社員の皆さんに期待しているところです。

古屋新社長のバストアップ写真

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(聞き手:伊藤真帆、福崎明子)

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