新しい服を作り続ける意味はあるのかと自問自答、アツシナカシマが出した一つの答え

トワルを触る男性

「ATSUSHI NAKASHIMA」デザイナー中島篤

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「ATSUSHI NAKASHIMA」デザイナー中島篤

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新しい服を作り続ける意味はあるのかと自問自答、アツシナカシマが出した一つの答え

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「ATSUSHI NAKASHIMA」デザイナー中島篤

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 デザイナー中島篤が手掛ける「アツシ ナカシマ(ATSUSHI NAKASHIMA)」が、「100年後の未来」のために環境問題に取り組むブランドとして新たに生まれ変わる。ジャン=ポール・ゴルチエ(Jean Paul Gaultier)のもとで長らくデザインを担当し、クリエイションに向き合ってきた同氏は、自身の健康上の問題をきっかけに環境を意識するようになったという。2023年秋冬ミラノファッションウィークでファッションショーを行うアツシ ナカシマは、ITコンサルティングなどを行うKeepAliveと手を組み、デジタルとのタッチポイントとしてNFC(Near field communication=近距離無線通信)チップを使用し、環境問題や循環型社会に関するメッセージを発信する予定。且つ全てのアイテムに循環素材を使用する。

 新しい服を作り続ける意味はあるのか、と自問自答したという同氏が導き出した一つの答えが、KeepAliveと共同で進める「サーキュラリティ(Circularity)」プロジェクトだという。中島篤とKeepAliveの成田敦 代表取締役は100年後の未来のために、何に取り組むのか?その真意を聞く。

左)ATSUSHI NAKASHIMAデザイナー中島篤、右)KeepAlive成田敦 代表取締役

中島篤
2001年に名古屋ファッション専門学校 ファッションスペシャリスト課を卒業後、2003年に第20回 オンワードファッション大賞でグランプリを受賞。 ジャン=ポール・ゴルチエにスカウトされ2004年に渡仏し、ジャン=ポール・ゴルチエ直属のアシスタントデザイナーに就任。2009年にジャン=ポール・ゴルチエ ディフュージョンラインのヘッドデザイナー就任。2011年に帰国し、自身のブランド「ATSUSHI NAKASHIMA」をスタート。2013年にはジルサンダーネイビー バッグラインのディレクターに就任し、2015年にミラノコレクション公式スケジュールで初のコレクションを発表した。

成田敦
1980年6月8日生まれ。外資系コンサルティングファームを経て2006年7月にKeepAlive株式会社を設立。 大手ECモールのリニューアルや流通業の基幹システム刷新など幅広くITを活用したクライアントの事業企画に携わる。 近年、デジタルとファッションの融合をコンセプトに自社ブランド「Onemiler & Detrans」を展開。 また複数のコレクションデザイナーの支援も行う。

お二人はそもそも職種が違いますが、出会いのきっかけは何だったんですか?

成田敦(以下、成田):ITコンサル事業が軸にある弊社KeepAliveがNFCチップ※を中心としたビジネスをファッション業界に向けてやろうと数年前に決断したことに端を発します。NFCチップを活用した革小物ブランド「ワンマイラー&デトランズ(Onemiler & Detrans)」、ニットブランド「アンペイブド(UNPAVED)」の立ち上げのほか、2022年秋冬シーズンにRakuten Fashion Week TOKYOに協賛して、「ベッドフォード(BED j.w. FORD)」と「ヨシオクボ(yoshiokubo)」のショーでNFCチップを用いたお手伝いをさせて頂きました。その流れから中島さんと出会い、NFCチップを使って何かできないかと話したことがきっかけです。

※NFC(Near Field Communication)とは、短波HF帯(13.56MHz帯域)の電波を使用した「近接型」無線通信の規格のこと。SuicaなどのICカードに用いられている。

中島篤(以下、中島):僕はジャン=ポール・ゴルチエ(Jean Paul Gaultier)のもとでデザインをしてきましたが、本当に毎シーズン新しいものが生まれる面白い時代で、多分に影響を受けて。ゴルチエのもとを離れ、自分のブランドをスタートして10年以上が経ちますが、今は世界的に見てもクリエイションが成熟してしまい新しいものが出にくくなっている状況下にあると思います。業界のピラミッドも硬直化し、新しいデザイナーが入る隙間もないなかなかないですし。服作りというのは、未だに生地を裁断して、縫って、というスキームが変わらない中で、やっぱり時代に合わせて何か新しいものを取り入れないと、物理的に新しいデザインを生み出すことは難しいのではないかと考えるようになりました。それでデジタル技術を駆使すればまた新しいファッションを生み出せるんじゃないか、そう思ったのがきっかけです。

成田:どうせやるんだから、テクノロジーをフル活用したショーにしたいと中島さんから要望がありました。それから2月のミラノファッションウィークで行うショーで、何ができるかみたいなことをブレストしていったかたちです。

それで生まれたのが100年後の未来に向けた「サーキュラリティ(Circularity)」プロジェクト。どういうブレストを重ねた結果、立ち上げに至ったのでしょうか?

中島:コロナが流行り始めた時、ミラノファッションウィークが時期的に重なってしまい、様々なブランドがショーの中止を余儀なくされたことがあったじゃないですか。僕も協会から無観客でやってくださいと言われて。それは全然オッケーだなと思っていたんですけど、準備が全部終わったショー前日の夜に食事をしているとミラノ市が全イベントの中止を発表して。日本からチームを招聘して、モデルオーディションも終えてしっかり準備をしてきただけに、正直落ち込みました。それと同じくらいのタイミングで、アレルギーになって顔がボロボロになり、体調も崩してしまって。ステロイドを処方してもらって使っていたんですが、一時的には治ってもやはり再発するんですよね。そこで結局内面から直さなければ意味がないとなり、悪かった食生活を見直したんです。その中で環境にも意識が向くようになりました。僕は低気圧に弱いということもあって、温暖化によって大気が不安定になると、体調を崩してしまったり、空気中に漂うマイクロプラスチックが体に与える影響なども考えるようになりました。そこでサーキュラリティ プロジェクトを立ち上げ、不要な服が再生可能素材になり、 その素材を使ったデザイン性の高い服を作ることで、 新たなファッションの楽しみ方を提案していこうと。その第1弾のお披露目として、今回ミラノファッションウィークでコレクションを発表します。

成田:我々ITコンサルのKeepAliveが参画するわけですから、ショーではデジタルテクノロジーを融合したいということは根底にあったんですけど、プロジェクションマッピングなどの目に見えるテクノロジーを駆使することは既に飽和状態ですし、新しさを感じない。逆に新しい技術は何だと言ったら、メタバースなどになると思うんですが、まだ万人受けではないんですよね。それこそ世の中のクリティカルな課題を解決するためのものではなく、娯楽のためにテクノロジーが使われていてあんまり本質的じゃないなと。そのため我々は、テクノロジーを使った地球環境の改変こそ、今の時代に一番合うテクノロジーなんじゃないかと考えたんです。VRやARは旧来型テクノロジーだと私は認識していて、そうではなく地球環境を改善するプリミティブなものに着眼するのが新時代のテクノロジーなんじゃないかと。まずは手始めとして、ミラノではデジタルとのタッチポイントとしてNFCチップを通じて、環境問題や循環型社会に関するメッセージを発信しようと考えています。

中島:物を作るとそれだけゴミが生まれる可能性が高いので、NFCチップを活用してスマホかざすとコレクションについて書かれたウェブページに飛ぶようにして。そうすることで、紙のプレスリリースを配らずに済むので。ゆくゆくは商品の追跡、そこからさらに再生可能素材を作っていく環境を作り出したいと考えています。

NFCチップを活用したトレーサビリティ。

成田:そうです。物を作ることはゴミを生み出すことに繋がる可能性があるので、売る側の責任をちゃんと形にしようとすると、捨てられていないかどうかをデータ管理する義務が出て来ると思うんです。所有者が使わなくなったら回収する、というところまでが売る側、作る側の責任でしょうと。加えて、ミラノで発表するコレクションは、循環素材「PANECO®」と「PlaX」を軸に中島さんに服を仕立てて頂きました。

中島:実は素材の分野ってそこまで成熟していないんですよ。理想は、永遠にリサイクルされ続けることだと思うんですが、実際はポリエステルとコットンが混紡された糸は戻せなかったり。ポリエステル100%だったら永遠にリサイクルできるという話もありますが、結局再生の際に不純物が混じってしまい完全とは言えない。そこで注目したのは、環境配慮型素材の研究・開発・製造・販売をしているワークスタジオ(WORKSTUDIO)という会社でした。什器として使用されているパネルなどを作っている会社なんですが、服を粉砕してパネルを作るということをしていて、そのアプローチで粉砕したものを和紙の原理でテキスタイルに戻せば永遠にリサイクルできないかと考えました。「PANECO®」の完成度は40%程度ですが、研究開発として色々試してるところです。今回のショーでは、その未完成が故の生地の荒々しさをそのまま表現しようと考えました。

「PANECO®」となる服を粉砕したもの

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 あとマテリアル・クリエイション・カンパニーのBioworksが作っている「PlaX」は、サトウキビの植物由来の繊維を利用した「ポリ乳酸」の生地なんですが、これはもし捨てられたとしても全て土に還るもので。生地の見た目もいいですし、実用的でもあるので今回は「PlaX」でTシャツを作りました。アイロンなどによる熱に弱いっていう課題はあるのでそれを解決しつつ、ゆくゆくはトレンチコートドやブルゾンなどを生産していければと思っています。

「PANECO®」の生地

成田:テキスタイルの会社や生地商社などで色々と生地を見せて頂いたんですが、その中で一番サーキュラリティというテーマと親和性の高いマテリアルがこの2つだったんです。リユース、リデュース、リサイクルだと、やっぱりリユースが最も環境負荷がかからないんですよね。だからリサイクルだけど、工場をフル稼働して二酸化炭素を多く排出している生地を選ぶことはしませんでした。

そのほかにはどんなテキスタイルを使用したんですか?

中島:あとは過去のコレクションで使った廃材を使っています。今回のコレクションで、アツシ ナカシマ自体も環境に特化したブランドとして再スタートとなります。今後コレクションには全て、循環素材を使用する予定です。

リブランディングということでしょうか?

中島:そうですね。今後は着やすいものを作っていく予定なんですが、 まず新しいアツシ ナカシマを知ってもらうために、ファッションが面白い時代を知っている自分のクリエイションを出し切ろうと、ショーではオートクチュールのようにインパクトあるデザインを採用します。ブランドデビューの時のように、自分本来のクリエイションを今一度やってみようと。

では2023年秋冬コレクションは実売を考えてデザインしていない?

中島:そうですね。ですがこの発表をきっかけに、カプセルコレクションとして再生可能生地を使用して再構築したアーカイヴアイテムをオフィシャルECで販売予定です。

成田:コンサルの立場からすると、コレクションブランドの事業ポートフォリオって、作ったものを販売して買ってもらうという短いタームでのフロービジネスなんですよね。ただあれだけのクリエイションを日々しているわけですから、知的財産権的なストックビジネスが本当はできるはずで。テクニックだったり、ノウハウだったりをマネタイズできていないことって外から見ると本当に不幸だなと思うんですよ。だから今回素材を作ったり、服じゃないことにもチャレンジしようとしているのは、長期的に運用できるストックビジネスに転換させて新しいマネタイズの方法を確立しようと考えたからです。着やすい服を作るというのは、ブランドの浸透のためには必要だと思うんですが、フロービジネスでしかないので昨今のコレクションブランドが苦戦している現状を見ると未来は明らか。それこそファストファッションなどが抱える衣類廃棄問題にも繋がります。なぜアツシ ナカシマが循環素材でオートクチュールを作るかと言えば、ストックビジネスのアイデアを気に入ってもらえれば企業が動きより大きなお金が動き、ブランド価値も向上していくという想いがあったからです。そのため、実売に注力する予定はありません。

先ほどおっしゃっていた素材開発などのR&Dをストックビジネスとして展開していくということですね。

成田:そうですね。蓄積された資産を使って、一緒に共同開発した方がさらにいいものができるじゃないですか。アパレル以外の分野においても。本来デザイナーというのは、そういうノウハウの塊だと思うんです。だから可能性を広げることが必要なんですけど、ファッション業界というのはとても硬直化した世界で、デザイナーも業界に閉じ込められてしまっている。デザイナーが持つビジネスアイデアも1つのクリエイションですし、もっと色々な産業と連携することで新しい未来が描けると思いますし、我々が変えていきたい。先ほど言ったように、フロービジネスは環境に負荷がかかることにもつながるので。

フロービジネスだとどうしても衣類廃棄問題が起きてしまう、それは環境を考える上で本質的じゃないと。

成田:成熟国の日本がやるべきは環境に配慮した経済活動だと思うんですよ。途上国はそりゃ発展のために仕方ない部分はあると思いますよ。エネルギーをバカバカ使ったり、いろんなものを燃やしたりというのは日本もやってきたことなので。でも僕らみたいに成熟している存在は、お手本になるような生き方をしなきゃいけない。これはあくまで倫理の話にはなりますが。

サーキュラリティ プロジェクトの今後について現時点で決まっていることはありますか

成田:基本的にはR&Dを続けていく予定です。デザインは賞味期限がそんなに長いものではない中で、R&Dは長持ちする。寿命の短いものと長いもの、フローとストックのバランスを取りながら、事業を展開していかないとと考えています。

中島:やっぱり今後のファッションは、絶対に環境素材が中心になると思うんです。何年後かはわからないですけど、使用素材に関していつか国の規制もかかると思うので。僕らはそのパイオニアになれればと考えています。でも最初にやる人って、ババを引く可能性もあるんですけどね(笑)。でも、面白いファッションクリエイションを追求したいからこそ、挑戦し続けたいんです。

将来的に、研究開発したものは特許申請なども視野に入れている?

成田:そうですね。ただ広めたい気持ちが強いので、アライアンスを調整してみんなが使えるものにしていきたいと考えています。あと中島さんのデザインの核として、「自然美、機能美、幾何学=クラシック」みたいなところがあって。循環素材を使う意義というのも、今までのデザインコンセプトに矛盾しないし、極端にブランドが変わるものではないと考えています。ありのままの状態が一番モノが良くて美しい、という美学は、ブランドとして一貫して追求してきたものなので。

中島:僕のデザイン哲学の中で、人が何を見たら美しく感じるかについてのロジックがあるんです。 簡単に言えば、自然というか、計算されていないものこそ美しいということで、だからこそ生地を粉砕した「PANECO®」に魅力を感じるというか。デザイン視点で考えても、環境を守るということは美しさを守るということに繋がるなと考えているんです。

持続可能性と美の追求は矛盾することなく、むしろシナジー効果があると。

中島:そうですね。それに今までに無かった生地で服を作れるので、より面白いクリエイションが発揮できるんじゃないかと。ミラノで発表する2023年秋冬コレクションを起点に、今後もサーキュラリティ プロジェクトを推し進めていければと考えています。

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