2024年3月11日(月)から16日(土)まで開催した「Rakuten Fashion Week TOKYO 2024A/W」。ショー前後のバックステージで、デザイナーをはじめ、ショーに携わるクリエイターにインタビューを敢行した。ショーに込めた想いや開催までの過程など、ここでしか読めないリアルな声をおとどけする。
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今回はブランド初のショーを開催した<Kota Gushiken(コウタグシケン)>。
フォトグラファー広瀬正道が、会場の心地よいムードとともにフィルムにおさめた。
バックステージレポート
具志堅幸太が手がけるニットウェアブランド<Kota Gushiken>は、東京都と日本ファッション・ウィーク推進機構(JFWO)が主催するファッションコンペ「東京ファッションアワード 2024(TOKYO FASHION AWARD 2024)」を受賞し、Rakuten Fashion Week TOKYO 2024にてショーを開催した。今シーズンのコレクションは、パリに持っていくためのいわば自己紹介のようなコレクションとなった。片付けができないと自認するデザイナーがつけたテーマは、「organiseid well」。あえてスペルミスを入れるところにブランドらしいユーモアを感じる。この半年で行った「整理整頓」をテーマに、アーカイブから最新作までを展開した。
会場の渋谷ヒカリエホールに入ると、すでに慌ただしく準備が始まっていた。
今まで手がけてきたコレクションの数々が天井から吊るされる形で出迎えてくれた。
<Kota Gushiken>は、初のショー開催ながらも王道のランウェイショーではなく、芸人によるコント×バンドによるライブという前代未聞の演出に挑戦した。
芸人の又吉直樹さん、好井まさおさんは、知り合いを経由して紹介してもらったという。
お酒の席で対面した際、デザイナー自身が会話も忘れて、目の前で繰り広げるトークの面白さや軽快さに惹き込まれたことがこのオファーのきっかけとなった。
会場の渋谷ヒカリエホールには、2つのステージがセッティングされた。
客席から見て前方のステージには、コントを見せるステージ、後方のステージは女性ツーピースバンド「酩酊麻痺(メイテイマヒ)」のライブを見せるステージ。
この二つのステージを使ってどのような演出を行うのか期待に胸が膨らんだ。
本番が楽しみだと無邪気な笑みを浮かべるデザイナーの表情からも一層の期待を感じることができた。
前方のステージは<Kota Gushiken>の展示会を模した空間で、新作のコレクションが並べられていた。
大学の卒業制作として制作して以来、ブランドの定番となったモナリザのニットはカラフルにアップデート。
AIによって今は亡きメンバーの参加が実現した「The Beatles(ビートルズ)」の新曲に考えさせられ、AIに向き合い制作したスカジャン。
新潟の居酒屋で出会った八海山が出しているライディーンビールのポスターからインスピレーションを受けて生まれた「八海山」とのコラボカーディガン。
ショーでは、展示会に来た又吉さん、好井さんの二名が<Kota Gushiken>のブランド紹介を織り交ぜながらの学びあり笑いありのコントを繰り広げた。
洋服好きでプライベートでも仲が良いという二方のスラスラ出てくるファッショントーク、「こんな着方はどうか」という提案には、会場にいたファッションフリークも思わず頷いていた。
途中、ルックを巨大スクリーンに映し出してスライドショーのように紹介したシーンでは、又吉さんの相方でNY在住の綾部祐二さんの写真が差し込まれ、会場から大きな笑いが起きた。
コントが終盤に差し掛かると、又吉さんは刷り込むように「コウタグシケン」の発声を繰り返し、次第にエコーがかかり声は沈んでいく。
そのまま後方のステージの幕が開き、間髪を入れず「酩酊麻痺」の柔らかい声、音色が会場を包み込んだ。同時に、吊るされたアーカイブたちもお目見えし、会場の空気に温かな彩りを加えていた。
「酩酊麻痺」は、ヒ(Vo, G, Dr)とマリン(Key, Syn, Dr)による2ピースバンド。
分解されたドラムセットでの独自の演奏スタイルが目を惹いた。
最後は二人がステージの灯りを消して「Kota Gushikenでした」というデザイナーの声で締め括った。
「ショーをやりたいわけではなかったけど、やるからには面白いものにしようと思った」
ショーは魅せることに注力すると、演出が強くなりすぎて肝心の服が見えず、モヤモヤを感じることが多々あるが、今回の前代未聞のショーでは、「服を見せる」と「演出で魅せる」がきちんと両立されており、目から鱗だった。
「Kota Gushikenは片付けができない。」
<Kota Gushiken>のコレクションは、シーズンテーマのようなシーズン毎に異なる一つの軸に沿って作られていない。
その時々のデザイナーの作りたいものを作りたいときに作る。
全体感を意識するがあまり生まれる縛りがないから、一点一点に込められた熱量を感じることのできるブランドだと思う。
デザイナーの人柄、丁寧なものづくり。
ニット地は編むことで物理的な温かさが増すものだが、<Kota Gushiken>にはそれ以上の温もりを感じる。
ショーやコレクションを見て温かい気持ちになるのは私だけではないはず。
願わくば<Kota Gushiken>はずっと片付かないでほしいと思った。
デザイナー 具志堅幸太 インタビュー
― 今回、デザインにおいて意識したところは?
プロになってからは初めて海外でも発表するコレクションでもあったので、自己紹介のようなコレクションにしたいなと思いました。ぼくは高3の時にファッションデザインの勉強を始めたのですが、その時に作った作品の写真から全部見返してみたんです。自分のことをデザイナーとしても人間としてもなるべく客観的に見てみようと思って。いいところは伸ばして、弱いところは改善したいという感じで。それで、「これがコウタグシケンです」って言えるようなコレクションになればいいなっていうことを意識してデザインしました。
― チャレンジしたアイテムについて
はい、いっぱいあります。リバーシブルのスカジャンを作ったり、葛飾北西の神奈川沖浪裏の波を編み地のテクスチャーで表現してみたり。キラキラしてる糸も初めて使ったし。そういう新しい試みも意識して取り入れました。
― 苦労したところは?
いつもは3月に発表の秋冬コレクションをパリの期間に合わせて1月にパリで発表したので、時間をやりくりするのが大変でした。
― 又吉さんと好井さん、酩酊麻痺の出演の経緯を教えてください。
まずは、せっかくショーをするなら、お客さんにも関わってくださる方も僕も「楽しくていい時間だった」と思ってほしかった。酩酊麻痺に関しては、僕がパリ滞在最終日に彼女たちの新譜が出たんですよ。パリのホテルでワインを飲みながらひとりで聴いていて、めっちゃいいなと思って、ショーで演奏してもらえたらいいなと思ってお願いしました。又吉さんと好井さんは、去年たまたま知り合うきっかけがあって。何度か一緒にごはんを食べたり、展示会にも来てくださったり。好井さんの語り口ってメロディーみたいに聞こえるんですよ。又吉さんは情景とか映像がパッと浮かんでくる喋り方だと感じました。体ひとつで表現している人たちの強さ、カッコよさをすごく感じたんです。
― それで出演をお願いされたのですね。
はい。おふたりともただ楽しいことをやるだけの人ではなくて、悲しいこととか、ネガティブなことも表現しつつ、その中に笑いを見つけているっていう印象をもったんです。酩酊麻痺の音楽は暗さの先に希望や光を感じます。そんな又吉さんと好井さん、酩酊麻痺と一緒だったら、いいショーができる気がすると思って連絡しました。ダメ元でオファーしたんですが、即答で「やりたいです」って言ってくださって実現できました。
― 又吉さんと好井さん、酩酊麻痺、具志堅さんのみんなで構成を作り上げたとお聞きしました。
そうですね。又吉さんが最初に骨組みたいなのを考えてくださって、そこからみんなで打ち合わせして。みんなで飲みながら、ごはん食べながら。4人でなんでも言い合って、誰かが言ったアイデアに対して「それじゃあ、こうしたらどう?」みたいに、脳みそをみんなでシェアしている感じがして、すごく楽しかったです。ただ最初の又吉さんと好井さんのお話の内容と酩酊麻痺の音楽の演奏に関しては完全にお任せでお願いしました。
― とても新鮮で楽しいショーでした。今後のショーも期待しています。
ありがとうございます。ただ、今後はまったくわからないですね。ショーはあんまりやらないと気がしますが、ショーをやりたい気分になったらやりますし、全然違う気分だったら、その時の“それ”を表現できればなと思います。
芸人 又吉直樹、好井まさお インタビュー
― 今回はおふたりでコントを披露されますが、具志堅さんとどういったディスカッションなり打ち合わせがあったのでしょうか?
好井まさお(以下、好井)― なかったっすよね。
又吉直樹(以下、又吉)― おまかせ、みたいな。
好井 ― 2人の普段の会話でやってもらえたらっていうことだったので。僕らもコントというよりは、服を通して会話するみたいなイメージでやろうと。
― おふたりは、お笑いを求めてスタジオに来たお客さんを前にコントを披露することが本業ですけども、今回は<コウタグシケン>のお洋服を見に来たお客さんを前にコントを披露しますよね。お客さんのタイプもシチュエーションも違いますが、意識されていることはありますか?
又吉 ― 僕の想定では、最初、みんな驚いて何のことかわからないと思うんですよね。「ファッションショーを見に来たのに、何が始まったんやろ」みたいな。徐々に僕らの空気感が伝わっていく、みたいになればいいなって。それを目指しています。コントをするっていう感じではないですね。
好井 ― 2人の自然体の会話の延長線で見ていただくっていうか。又吉さんとはプライベートでもよく一緒に洋服屋さんに行ったり、古着屋さんを回ったりするんです。その時も、服を見ながら「それ、かっこいいな」とか言いながらふざけあったりしているので、そういう雰囲気でやれたらなって。
又吉 ― 僕らの日常そのままを舞台に投影する。
好井 ― お客さんからしてみたら、絶対“異物感”はあると思うんですけどね。「いや、これが普通やで」っていう空気をめっちゃ出してやろうと。
又吉 ― 平然とできたらいいなと思います。
― おふたりが考える<コウタグシケン>の魅力は?
好井 ― 「着れるアート」なんて<コウタグシケン>だけですよね。「ゴッホって着れんの?」って。
又吉 ― そうですね。幸太さんってアートも音楽も好きやし。あらゆる“表現”が好きだと思うんです。そういうものを全部、ニットに編み込んでいくって、それはすごくおもしろいなって思いますね。すごく立体的な表現をやっていらっしゃるなと感じます。
又吉 ― 唯一無二の存在感がカッコいいです。
アーティスト 酩酊麻痺(ヒ、マリン) インタビュー
― 具志堅さんとは、もともとお友だちだったのですか?
酩酊麻痺 ヒ(以下、ヒ)― はい。彼がパリにいる時に私たちの新譜が出て、その感想を電話でいただいて。その時にショーに誘ってくれたんです。
ヒ ― 「ショーをやるから。楽しいショーにしたいから」って(笑)。
酩酊麻痺 マリン(以下、マリン)― 私たちも即決で「いいよ」って。
― 選曲は具志堅さんと相談しながら決めたのですか?
ヒ ― そうですね。又吉さんと好井さん、みんなで。
― みんなで作り上げたのですね。
ヒ ― ほんとにみんなでやらせていただきました。
マリン ― 「こうしてみたい」「こうしたらいいよ」とか、みんなで意見を出し合って。
ヒ ―たぶん、彼はみんなととにかく楽しいことをしたいっていう気持ちだけがあって、基本、私たちにおまかせしてくれていました。私たちもアイデアを出しましたし、又吉さんと好井さん、もちろん具志堅さんも。みんなで作り上げたと言っていいと思います。
― 普段おふたりはライブ会場でパフォーマンスを披露していらっしゃいますが、今回はファッションショーという、いつもとは違ったフィールドでの活動でした。意識の変化はありましたか?
ヒ ― 逆に意識しないようにしようと思って。私たちのことを知らない人が多いと思うので、私たちができることを、いつもどおりにやりたいなって。
― 最後に、具志堅さんの好きなところ、魅力的なところを教えてください。
ヒ ― 私も彼もお酒が大好きで、飲みながらいろんな話をするんです。彼の好きなところは、結構はっきりものを言うところと、笑顔が可愛いところです!
マリン ― 私もまったく一緒ですね。あと、正直なところも!
HOLDINGS CO., LTD.), Hitomi (Meiteimahi) and Marin (Meitei Mahi)
Photo by Naoya Matsumoto and Yuichiro Noda
Movie by Herbert Hunger
Production by H INC.
Modeled by Glorietta Reantaso, Ruben Cefai (xdirectn) and Rakhim Imashev (spectomodels)
<Kota Gushiken>
設立年 2017年Designer – 具志堅 幸太
デザイナー具志堅幸太が手がけるニットウェアブランド。セントラル・セント・マーチンズ ファッションデザインニット科で学び、在学中は<Dior(ディオール)>のクチュール部門、<Proenza Schouler(プロエンザ スクーラー)>などでインターンを経験する。セントラル・セント・マーチンズ の卒業コレクションが英ファッションメディア The Business Of Fashionの「Top 6 Central Saint Martins BA Graduates Of 2016」に選出される。
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