「ルイ・ヴィトン（LOUIS VUITTON）」のウィメンズ アーティスティック･ディレクター ニコラ・ジェスキエール（Nicolas Ghesquière）が考えるフレンチ・スタイルとは？——パリ・ファッションウィーク期間中の3月6日、ルイ・ヴィトンがオルセー美術館のサロンで2023年秋冬コレクションを発表した。フランスの現代アーティスト フィリップ・パレーノ（Philippe Parreno）と、映画「ライオン・キング」にも携わったプロダクションデザイナー ジェームズ・チンランド（James Chinlund）が舞台演出を担当。フランスの作曲家 ニコラ・ベッカー（Nicolas Becker）による3Dのサウンドインスタレーションが謎めいた空間を作り上げた。

光と音が織りなすイリュージョン

　今回のテーマは「フレンチ・スタイルとは何か」。ランウェイはパリの石畳を黒で表現したランウェイに、マンホールまでもリアルに再現。オルセー美術館のクラシカルな装飾と、コンテンポラリーな舞台装置がコントラストを生み出している。雨音やサイレン、犬の吠える声といった環境音が会場を包み、ライティングと細やかに連動。パリのストリートを再現する没入型インスタレーションが観客を取り囲む中、メタリックなメイクをまとったモデルたちが登場した。

フレンチ・スタイルとは進化するファッション

　前半のルックはいずれも落ちついたモノトーン。モダンな雰囲気をまとい、膝部分に切れ目を入れたパンツなどシャープなカッティングが目を引く。ジェスキエールはフレンチ・スタイルについて「いたるところから複数の流れが集まるパリンプセストのような、進化するファッション」と形容し、「それはまた逆説的でもあり、上辺だけの知識しか持たない素人愛好家の空気も漂う。フランスの魅力はトロンプ・ルイユ（騙し絵）のようなもの」と語る。パリンプセストとは、書かれた文字などを消し、別の内容を上書きした羊皮紙の写本のこと。クラシックをベースに様々な要素を融合させたルックは、まさにアップデート版のフレンチ・スタイルだ。

意味深でアンバランスなディテール

　彫刻のようなフォルムのドレスや、ソックスとパンプスを履いているように見えるトロンプ・ルイユのブーツなど、アーティスティックかつ意味深なアイテムも登場。ホルンやトランペットといった管楽器を模ったブローチや、白く発光するSF風マスクはシュルレアリスムを思わせる。長すぎる襟やマフラー、膝下まで垂れ下がるベルトなど、比率を再解釈したディテールは2023年春夏コレクションのエレメントを彷彿とさせた。

トリコロールをアクセントに

　フランスらしい青・白・赤の三色旗（トリコロール）はレザーグローブやキルティングバッグ、カーディガンなどに取り入れられ、モノトーンの装いにアクセントを効かせる。パリのストリートサインを模ったバッグや、ルイ・ヴィトン本社をジュエリーボックスに見立てたバッグなど、遊び心あふれるアイテムも登場した。

直線と曲線のコントラスト

　直線的なカッティングが随所に取り入れられ、ベアショルダーのブラックドレスも胸元のラインが目を引く。一方で、コクーンシルエットのアウターやフェイクファーのハーフパンツ、バナナシルエットのスラックスなど、やわらかな曲線が体を包むアイテムも印象的。メゾンのアンバサダーであるチョン・ホヨンがまとって登場したモノトーンのドレスも、両肩のラインが大きく弧を描いた。

　コレクションノートには「ルイ・ヴィトンは常に旅の真髄（こころ）を大切にしてきた。メゾンは、サヴォアフェール（匠の技）、技術、発見、そして芸術的理想の風に導かれながら、時を超えて航海する船なのだ」と記されている。ジェスキエールらしい力強いドレスメイキングが「パリ」という多面的な文化や歴史と重なり合い、新たな次元へと誘う。あらためてフレンチ・スタイルの奥深い魅力に気付かされるコレクションとなった。

全ルックを見る

LOUIS VUITTON -Women's-

2023 AUTUMN WINTERファッションショー

各国のセレブリティも大集合

　会場にはメゾンの新アンバサダーであるNew Jeans（ニュージーンズ）のHYEIN（ヘイン）、ルイ・ヴィトンのメンズ・クリエイティブ・ディレクターに就任したばかりのファレル・ウィリアムス（Pharrell Williams）のほか、ゼンデイヤ（Zendaya）、エマ・ストーン（Emma Stone）、カトリーヌ・ドヌーヴ（Catherine Deneuve）、レア・セドゥ（Léa Seydoux）ら、多くのセレブリティの姿が。日本からはローラ、Kōki,、中田英寿が来場した。

1 / 12

New JeansのHYEIN