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音楽と観る映画「ベイビー・ドライバー」

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芸術表現、文学や音楽、 絵画、演劇、そして歴史、政治、法律といったあらゆる要素が映画に集約される。これまで見ていなかったような様々な角度で見てみると、映画をもっと楽しめる。

第一回は、「音楽」。

この記事では、第90回アカデミー賞で、音響編集賞、録音賞、編集賞の3部門にノミネートされた『ベイビー・ドライバー』の3つの見どころを「音楽」と結びつけながら解説する。

『ベイビー・ドライバー』は、2017年に公開されたクライム・アクション映画だ。監督は、『ショーン・オブ・ザ・デッド』(2004年)や『ラストナイト・イン・ソーホー』(2021年)などを手がけるエドガー・ライト。主演にアンセル・エルゴートの他、リリー・ジェームズ、ケヴィン・スペイシー、ジョン・ハム、エイザ・ゴンザレス、ジェイミー・フォックス、ジョン・バーンサルらが出演。『バニシング・ポイント』(1971年)や『ザ・ドライバー』(1978年)といった映画にインスパイアされた本作は、迫力あるカーアクションに加え、スタイリッシュな演出と音楽が絶賛され、第90回アカデミー賞では音響編集賞、録音賞、編集賞の3部門にノミネートされた。

※本記事には映画本編の内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。

c 2017 TriStar Pictures, Inc. and MRC II Distribution Company L.P. All Rights Reserved.

動きと音楽をシンクロさせる演出

本作の主人公、ベイビー(アンセル・エルゴート)は、凄腕のゲッタウェイドライバーで、強盗グループの逃がし屋を担当している。彼は、幼少期の事故の後遺症で耳鳴りに悩まされているが、それを抑えるために、iPodで音楽を聴いている。

そのためか、劇中では数々の曲が流れており、ベイビーを中心に登場人物たちもその曲を聴くことが多い。そして、ミュージカルのように、音楽に合わせて役者の動き、時には車の動きがシンクロする。しかも、その楽曲のほとんどがフレームの外で鳴っているのでなく、実際に登場人物が曲を聴いているという設定のため、曲と共に自然と動き出すのだ。我々の日常でも、イヤホンやヘッドホンで曲を聴いている時に、曲に合わせてノったり、少しオーバーに動くのは珍しいことではない。

冒頭のアバンタイトル、銀行強盗から車での逃走にいたるシークエンスでは、ザ・ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンの『Bellbottoms』(1994年)がフル尺で流れる。ベイビーがiPodでこの曲を再生すると、カメラが曲のイントロに合わせて切り替わり、登場人物を次々と映している。仲間を車内で待っている彼は、曲の展開に合わせて動き、歌う。カーチェイスに移行した後も、拍子に合わせたような、リズミカルなカメラワークが臨場感を加速させている。こうした音楽と動きをスタイリッシュにシンクロさせる演出が、本作の大きな特徴の一つだと言える。

なお、この映画の構想は1994年に既に出来上がっていたそうだ。エドガー・ライト監督が2003年に製作したミント・ロワイヤル「Blue Song」のMVは、前述のシークエンスに酷似しており、映画のアイデアをこの時点で見出せる。

映画におけるDJ的な選曲と手法の到達点

クエンティン・タランティーノ監督作品など、DJ的な選曲と言われる映画は多々あるが、『ベイビー・ドライバー』はその点でも凝っている。比較的ポピュラーなものから、カシミア・ステージ・バンド「Kashmere」(1973年)などのレアグルーヴまで、マニアを唸らせる内容だ。

その使い方もDJを想起させるものだと言えよう。曲のドラムフィルを入れてから映像をカットインさせるだけでなく、曲終わりのかき回しのカットアウトに次の曲のドラムを重ねてかけるなど、クラブのDJプレイに近い曲の使い方だ。また、劇中のセリフを盛り込んだキッド・コアラ「Was He Slow?」(2017年)がかかる場面では、ベイビーが録音した声をスクラッチする様子を映している。

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DJ的な選曲と手法について特筆すべきは、バリー・ホワイト「Never, Never Gonna Give Ya Up」(1973年)の使い方である。とてもスウィートで心地よいソウルミュージックだが、この曲は、ベイビーとバディ(ジョン・ハム)がダイナーで対峙する非常に緊迫したシーンで流れるのだ。まず、ベイビーがダイナーに到着すると曲のイントロが聞こえてくる。車を降りて、お店に入ると、カメラがバディを映す。ここまでが長回し。そしてカメラを切り替えてベイビーを、さらにハムを映す瞬間、ジャストタイミングで曲のイントロが終わりコーラスが始まる。映像と音楽をシンクロさせながら、その二つを、ハウスミュージックのDJがロングミックスをするように組み合わせている。DJが曲と曲を混ぜているときの浮遊感、異質なものが混ざり合っている感覚をもたらすシーンだと言えるだろう。

そして、バディがベイビーのイヤホンの片方を付けて歌い始めると、曲のメロウさに似合わない異様な怖さと緊張感が生じる。また、「絶対に諦めずに追い続ける」というこのラブソングの歌詞は、その意味を反転させ、後のベイビーとの対決を示唆してもいる。バディの恐ろしさと甘い楽曲、緊張と緩和が同時にやってくるような、なかなか味わったことのない情感をもたらす選曲と演出だ。

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主人公”ベイビー”の成長物語と音楽

映像と音楽のシンクロについて述べてきたが、菊地成孔と大谷能生による講義録『アフロ・ディズニー エイゼンシュテインから「オタク=黒人」まで』(2009年)では、このような視聴覚の強いシンクロ=コドモ、その微妙な「ずれ」と「揺らぎ」=オトナという図式を提示していた。これを参照しながら本作を見ると、ベイビーが大人になり主体性を確立する(そして最後に本名が明らかになる)過程に合わせるかのごとく、音楽もズレていくと解釈できる。

主人公は、前述の事故によって歌手である母を亡くしており、マザー・コンプレックス、あるいは胎内回帰願望を抱えているように見える。他の情報が遮断された中で音と映像を浴びる映画館は胎内と結び付けられることもあるが、耳鳴りから身を守るために常に音楽に包まれている”ベイビー”の動きは、特に序盤、音楽と完全にシンクロする。バディはそんなベイビーに「逃避」という言葉を投げかけている。

バディはベイビーにとって大人のモデルだった。ベイビーがヒロインのデボラ(リリー・ジェームズ)をデートに誘う際は、バディが行ったお店を予約するなどしていた。しかし、中盤、バディもまた、強盗をすることで「逃避」していると指摘される。ここで、ベイビーとバディは鏡像関係にあると言えるだろう。二人はイヤホンをシェアして一緒にクイーン「Brighton Rock」(1974年)を聴き、最後はその「Brighton Rock」がかかる車に乗ったバディと対決するのだ。逃避したまま強盗を続けパートナーを失い、最後には破滅していくバディ。対して、ベイビーは強盗を拒否し、デボラを巻き込まないよう自らが捕まって大人としての責任を果たした。

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この二人の変化に合わせて、音楽の使い方も変わっていく。まず、ベイビーが主体的に決断する場面では、直前か直後に必ず音楽が途切れ、耳鳴り=ノイズが流れる。ノイズは音楽と動きとのシンクロが切れた状態とも言えるだろう。そのノイズ状態を経由した後で流れる音楽とベイビーの動きは、序盤と比べてシンクロが曖昧になり、いわばズレが生じている状態だ。反対に、バディの方は、特に終盤、発砲する動きと音楽とが完全に一致するようになる。大人になっていくベイビーと逃避したままのバディ。物語だけでなく動きと音楽でも、この二人の対比を巧みな仕方で見せている。

ベイビーが成長していくビルドゥングスロマン的な物語と、音楽と動きにまつわる卓越した演出。この二つが結びついているのも、本作が傑作たる所以だろう。

『ベイビー・ドライバー』
デジタル配信中
Blu-ray 2,619円(税込)/DVD 2,075円(税込)/4K ULTRA HD & ブルーレイセット7,480円(税込)
発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
c 2017 TriStar Pictures, Inc. and MRC II Distribution Company L.P. All Rights Reserved.

ライター : 島晃一

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