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モードノオト2020.10.16

Re:quaL≡ 2021年春夏コレクション

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モードノオト2020.10.16

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ファッションジャーナリスト
麥田俊一

ショーを手掛ける関係者には甚だ尾籠な話なのだけれど、間がな隙がなコンビニを見付けては缶酎ハイをガブ呑みして己が気分をハイに保ちながらショーを取材する不埒な姿を、遂に最終日に露呈する仕儀となった。今は、明けて日曜日の昼下がり。冷静になってみると、昨日所々で自分が吐いた暴言と妄言がボンヤリと脳裡を過り、二日酔いよりもタチの悪い痼りが自責の念を侵食し始めているのが手に取るばかりに分かる。嗚呼...繊細な、しかし鋭いおまえの爪先で、弛んでしまった私の心の糸を弾いておくれ...コップに浮かぶ氷の塊を舌で舐めながら、性懲りもなく透明な液体を口で迎えている。なんだか、昨夜は雨に濡れていたこともあったけれど、ベロベロ、デレデレとして生々しく色っぽかったなぁ。ドロっとした液体が胃の腑に沁み込み、血管を通して全身を解してくれる感覚に身を任せつつこの稿のネタ繰りを始めている。

正確に云うと、先程まで、二つのたらこ唇が放つせめぎ合う音に陶酔していた。ジャズトランペット奏者、フレディ・ハバード名義の『ザ・ナイト・オブ・クカーズ VOL.1』のA side、Pensivateを繰り返し聴いている。悪所通いのために貯め込んだヘソクリを崩して数年前に購入したオリジナル盤(米国ブルーノート、1965年録音)である。NYCのジャズクラブに於けるライブの記録である。フレディとリー・モーガンと云う黒人トランペッターの、文字通り火の出る如くの演奏。それぞれ片面を一曲のみで構成する長尺の演奏である。収拾が着かないほどの熱演は、終焉を迎えつつあるハードバップに来るべきフリーキーな気分を馴染ませたもので、その飽和状態がライブ録音を一層熱気のあるものにしていて広い空間を感じさせる名演である。若きハードバッパーの演奏(1972年2月18日に深夜、NYCのジャズクラブ、スラッグスに出演していたモーガンは、セット間の休憩時間に、14歳年上の愛人ヘレンの手より発射された32口径のリボルバーの銃弾に心臓を射抜かれて死亡。ジャズメンらしい最期だった)を聴きたかったのには、それなりの理由があった。前日の二つのショー(「リコール」と「パーミニット」)を勝手に、かの生きのいい黒人トランペット奏者のバトルに重ね合わせてみたのだった。

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私は決して巧みの綾を織ってみようとするのではない。一時の感傷に溺れず突き放して書くことが出来れば、それに越したことはないのだし、そのような態度は一種の批判的リアリズムと呼ぶことが出来のだろうが、先に白状したように、ベロベロ、デレデレの為体では、さすがにそう云う大人の態度は取れないのである。短期集中連載の最終日にしてファッションショーについて言及することが叶い漸く荷を下ろすことが出来たわけである。ショーに代わる動画配信、展示会、或いは実際のショー、いずれにせよ当今のパンデミックが、先行き不透明だからこそ本来ファッションが見失うべきでない気勢を再確認する契機となったことは確かである。服と人との繋がりやファッションへの歩み寄り方を新たに模索せざるを得ない時代だからこその、一層ポジティブな提言が目立った、と、これまた予定調和に過ぎた物云いだけれど、本当にそうあって欲しいことを願って強調しておきたい。画面上に見るイメージとはまた違った感覚で、実際のショーは、撫でまわすような眼で服の佇まいを左見右見(とみこうみ)して飽きさせることはない。

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二つのショーの一つは土居哲也の「リコール」である。新型コロナウイルスの感染拡大を危惧して断念せざるを得なかった前回のデビューショーのリベンジとなった今回は、私にとっても決して他人事ではなかった。以前他所で書いたけれど、例の如く私は、まだ学生だった彼に散々ぱら酷なことを云った(「ここのがっこう」にて講評をした折に辛辣な言葉を投げた)ことがあったが、土居は、ロートルの酔いどれの戯言をバネに「アンチムギタ」を公言し、精進を重ねてきた輩である。本人より面と向かって「アンチムギタ」と云われた時には、正直、ちと嬉しかったのだけれど、そこは私もファッションを書く売文家の端くれだから、精々頑張りなさいよと、おもはゆさをひた隠してお茶を濁したのである。当時の彼が作っていた服はあまり好きではなかったけれど、しかし密やかにエールを贈ってみたい気がしたのである。

【全ルック】Re:quaL≡ 2021年春夏コレクション

変わらないことは、確かに大切なことだ。進化の過程に於いては、覚悟を持って変わることの必然を体感することもあるのだろうが、その人のコアに根差した感覚を無闇に変えてはならない。身体のパーツ然り、服の部位を恣意的に分離することで、冠婚葬祭とか夜の服とかスポーツウエアとか、服の持つ日常のドレスコードを壊し、身体と服の構造を書き換え、新たな文脈に置き換えようとする試みは、今回のデビューショーに於いても頗る顕著に見受けられる。これが彼の流儀なのだ。ヴィクター&ロルフやフセイン・チャラヤンに代表された、1990年代後半より2000年代前半に掛けて象徴的だったコンセプチュアルな服を彷彿させる土居の目指すところは、学生時代より変わらぬ、解体と再構築と云う厄介なジャンルである。厄介なだけに挑み甲斐もあるのだろう。但しこのジャンルは、服地や縫製、形や量感、配色や柄の意匠を含めたトータルな完成度の高さが一層求められる、極めてハードルが高い領域である。プロのショーであっても、精度の高さが足りていないために、学生の卒業制作の域を出ない例をこれまで番度見てきたから云うのだけれど、矢鱈に切り裂いたり、破いたり、ひっ付けたり、捻じったり、巻き付けたりしてみても、原型が乱暴に蹂躙されているだけの服の残骸にしか見えない場合が少なくない。此度の土居の服が、諸手を挙げて良いかと云うとそうとも云い切れない。だがしかし、頭から否とも云えないのである。

時節柄、手の仕事の大切さに注目していることは今回の連載中に幾度か触れている。素朴な線、温もりのある絵、不器用な形、武骨さを隠さない過程を曝け出した彼の真剣さに打たれたのである。主題に紐付くショーの概要をここで記すことは控えておく。一部の読者には必要な情報であることは承知しているけれど、そのあたりはプロのジャーナリストに任せておく。きっと私よりも巧く報道してくれるだろうから。またこう云うことを書くと周囲の顰蹙を買うのだけれど、こうした若いブランドについて語る場合は、細部の描写なぞは私には枝葉末節なことであり、端より発展途上の服の細部を穿つことなどにさして意味を感じてはいないのである。服が如何に破壊されようとも、よしんば悪化されようとも、そこに地息のようなものがあって、その中の虫のように、土居は、時空を超えた無国籍の東京を呼吸して生きているのだと思う。未熟だけれど、未熟だからこその真剣さに、私は少しく打たれたのである。

PERMINUTE 2021年春夏コレクション

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【全ルック】PERMINUTE 2021年春夏コレクション

昨日は雨に打たれて幾つかのショーを宮下パークで見た。今回の「パーミニット」は、同じ会場で見た坂部三樹郎のショーが霞んでしまうほどの驚きをもたらしてくれた。「パーミニット」の半澤慶樹と「リコール」の土居は同門である。だから取り上げた訳ではないし、此度は偶然に過ぎない。おお、ワンダア!言葉の濫用であるのは承知で発するところの「驚異」。「ワンダア」の言葉の響きに新鮮で健康な魅力のあった大正時代に遡ってもいい。ちと、バタ臭いことを云うようだが、そぼ降る雨も何のその。半澤の服が面白かった。二週間と云う短期間で、ショーで見せる構成にまで仕上げたのにも頭が下がる思いだが、時節柄、なんとなく理詰め過ぎたり、都合良く附会しているように映る服が少なくないのだが、半澤の服には予定調和の埒外にあるポジティブな勢いを感じる。私感とハッキリ断った上で云うべきことだろうが、鮮烈だったデビューショー以来、半澤は浮き沈みを繰り返してきたデザイナーの一人だと思う。土居とは違った半澤のコンセプチュアルな思考は、作品として結実するには至らなかった場合の方が多かったが、その反面で、密かに経験の蜜を貯えていたことだろう。例えば、エレガンスとスポーツの融合の見事さ。ややともすれば現実の女性の苦悩はばっさりと捨象されたかのような服を見せていた彼は、今回、自らの生活観や美意識をそのまま女性のキャラクターに反映させたかの如き服を提案している。自らの服作りを大きく旋回させたコレクションだと云えよう。柔らかだけれど、時に力強い線を削り出した彫刻的な形。でも粗野な痕は些かもない洗練の香りが漂っている、と云うと褒め過ぎだろうか。土居同様に、未熟さをも味方に付けている。欲を云えば、饒舌さを整理し、その分アイデアの展開を見せて欲しかった。点睛即飛去。即ち、睛を点ぜば即ち飛び去らん、である。洗練の度合いを増したらな、雨空を突き抜け、直ぐにでも天空に向けて飛翔するペガサスの如きイメージが私の脳裡に実を結んだに違いない。(文責/麥田俊一)

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【ファッションジャーナリスト麥田俊一のモードノオト】
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